
2019/09/25
壁を抽象絵画のように見る
『壁の本』(杉浦貴美子/洋泉社)という写真集がある。建物の外壁や塀、扉などの「壁」を写真で撮り集めたものだ。よく見ると、壁はいろんな表情をしている。シミがあり、ヒビがあり、錆びがあり、何かが剥がされた跡がある。コンクリート、木、鉄、タイルなど、質感もさまざまだ。
近寄って四角く切り取った壁の写真は、ときどき抽象絵画のように見えることがある。パウル・クレー風、ジャクソン・ポロック風、アンゼルム・キーファー風……。偶然生まれたその絵は、街の中で息をひそめて私たちに発見されるのを待っている。
年季の入ったビルや塀を見かけたら、近寄ってみてほしい。そこに「絵」があるかもしれない。同じ場所の絵でも、数十センチ移動すれば表情が変わる。どこを切り取るかは自分次第だ。
(text&photo 内海)
ー
『壁の本』
杉浦貴美子
洋泉社、2009年