
街角タイポグラフィ
『タイポさんぽ 路上の文字観察』(藤本健太郎/誠文堂新光社)という本がある。街の看板から「文字」を採取し、そのデザインの妙を鑑賞したものだ。ここで言うタイポグラフィとは、簡単に言うと「手作りの、一点モノの文字」のこと。あらかじめ一通りの種類の字が用意されている印刷書体やコンピューターフォントとは違い、その看板のためだけにつくられた文字のことを指す。
古い看板や装飾テントに書かれている文字は、たいてい一点モノだ。ペンキで直接書かれたものもあるし、カッティングシートやアクリル板でつくられているものもある。市井のデザイナー・看板職人が生み出す、手仕事の味わい。DTPが普及して簡単に既製フォントが使えるようになった時代だからこそ、街の中でタイポグラフィの存在感が高まっている。
『タイポさんぽ 路上の文字観察』には岡山県内で採取された文字もいくつか掲載されている。その一つが岡山芸術交流オルタナティブマップ(2016年制作)の中でも紹介した喫茶室イブリクの看板。岡山市立オリエント美術館にある喫茶店だ。『タイポさんぽ 路上の文字観察』では、イブリクの文字がこのように解説されている。
《繰り返される半円と、立ち上る湯気のような丸い濁点が、「コーヒーでほっと一息」なムードを醸し出している》
街角鑑賞で何を見るか迷ったら、ぜひ「タイポさんぽ」をしてみてほしい。店舗看板だけでなく食品パッケージやラベルなどにも、個性的な文字を見つけられるはずだ。
(text&photo 内海)
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『タイポさんぽ 路上の文字観察』
藤本健太郎
誠文堂新光社、2012年